9月6日号


フランスの旅 - Day 4 (Mon)24/07/2000


この日の食前酒はご近所の Combe (コンブ)夫妻のお宅で vin cuit (甘口の食前、食後用ワイン)を頂く。前夜 の美女コリーヌのご両親だ。ご主人のルイは今年80歳。13歳の時から炭坑夫として働き出し劣悪な労働環境の せいか、お酒の飲み過ぎのせいか実年齢より老けて見える。 次男のことを「カミカーズ」(神風のフランス語読 み)と呼びさかんにからかう。 この人のフランス語はマルセーユの訛りと俗語の連発で乏しい私の語学力では殆ど 手におえない。 しっとりと落ち着いた夫人のジャクリーヌは大戦中のインドシナで従軍看護婦の経験がある。 あ まりはっきり言わないがどうも日本軍と対戦があったようだ。 「亭主はいつ来るのか」とか「何故いつも1週間 しか来ないのか」と毎度同じ質問をされるが日本人サラリーマンの実状はどうしても理解できないようだ。

今日のお料理はポトフ。 大きな骨付きハムの固まり(これはちょっと入手難しいかもしれない)、リーク(西洋ね ぎ)、セロリー、玉ねぎ、にんじんに水を加え煮立ったらタイムを加え弱火で2時間ことこと煮る。最後の30分 でレンティーユ(レンズ豆)を加える。

ニコラのアルバイトは毎日変則的な勤務で今日は午後から。 ロベールが毎日オルリー空港のアルバイト先まで車で せっせと送り迎えしている。早朝に始まる事もあれば深夜に終わる事もある。 夜間の外出は禁止されているので 「皆バカンスに出かけていると言うのにこれじゃ刑務所に居るみたいだ。」とぶつぶつ言うが最終的にはパピイ (おじいちゃん)とマミイ(おばあちゃん)の言うことを聞いている。 ジェルメーヌがいつもおいしいお料理を作 ってくれるのにたまには友達とファーストフードを食べに行きたいようだ。 私にもグレック(ギリシャのファースト フード)おいしいから食べに行かない? と誘ってくれたが一度ぐらい連れて行ってもらえばよかった。  次男に「プレイステーションがあるからいつでも好きな時に遊んでいいよ。」と言ってロベールと出かけて行った。 機内食搬入のアルバイト、まんざらでもないようだ。

彼らが出かけた後ジェシカの話になった。両親の不仲、別居、離婚の最中ジェシカは大変ショックを受け学校の成 績も2年続けて急落したそうだ。 母親のボーイフレンドと上手く行かず家庭での居場所を失った彼女は最初はパピ イとマミイの所に来ていたが、いつしかのフランクと深い仲になり毎晩一緒に過しているのだ。 フランクは17歳、 すでに自動車整備工として働いている。 シャイで口数が少ないが礼儀正しいし整備士の資格試験にも挑戦し真 面目に働いているようだ。 しかしロベールやジェルメーヌは孫娘のこうした状況を見ていられず、いろいろ手を 尽くしてみたが結局ジェシカを婦人科に連れて行きピルを飲ませているのだそうだ。 ジェシカの父親であるディデ ィエも二人の仲を認めてか近々二人を連れてバカンスに行くのだそうだ。3年前は我が家の長男も一緒に連れて行 ってもらった大西洋に面した美しい町だ。

これとよく似た話をつい最近中国人の旧友サンディから聞いたのを思い出した。儒教精神の強い伝統的な中国人家 庭に育った彼女はドイツ人と結婚して1997年の香港の中国への返還前にドイツに移住した。息子が16歳の頃 夜時々家から消えるので問いただしたら隣家の14歳の娘とどうも怪しい仲になりつつあるようだった。それを察 した隣家の娘の母親が「止めても多分駄目だから娘を婦人科に連れて行こうと思っているの。」と打ち明けられた 事。 そして2年経った今年の夏、彼女の息子は隣家のファミリーとカリブ海にクルージングに行っているのだそ うだ。 彼の場合は進学校で今は勉強に専念しなければならない時期なのにドイツの学校はのんびりしすぎ、世の 中も10代の子供の性など驚くべきことではないと捉えている風潮に大いに戸惑っているようだった。 西欧のテ ィーンのこうした風潮はそのうちアジアにも波及するのだろうか。 本人達は真面目なようだし、確かに不特定多 数よりは家族もよく把握している一人の相手のほうが安心だろう。しかしこんなに若いときからピルを飲み続けて 大丈夫なのか少々気になる。

夕食用のパンを買いに出かけた折、ディディエのアパートを訪ねた。 娘と別れた夫とはいえジェルメーヌにとっ ては20年間可愛がってきた娘婿だし、ましてや孫娘の父には変わりなく時々訪ねているようだった。スチュディ オ・タイプとはいえベッドルーム、サロン、ダイニング、台所が独立しており機能的かつ広々と清潔。 裏には専 用の小さなパティオもある。 しかし大の動物好きで犬、猫、熱帯魚、小鳥といろいろな動物を家の中や広い庭に 飼っていた以前の家には比ぶべくもない。 共働きでやっと購入した家の内装や庭は殆ど自分でこつこつ長いこと かかって仕上げたのだった。 その家で私たちも大勢の人とともに何度も賑やかな食卓を囲んだ。 4年ぶりに会っ たディディエは40歳も半ばを迎え頭に白いものが随分増えたようだ。 彼ら夫婦とは子供が生まれる前も後も一 番よく一緒にバカンスに出かけ楽しい思い出が多く残っている。 目の前の無機質な新しい家具、広々としたタイ ル張りの床が一層温かみから遠く感じさせ言葉に詰まってしまった。 彼がバカンスに出かける前に一緒に食事を しようと約束してさようならした。

ジェルメーヌはこぼす。 今の子は望む前にすべて与えられ、家族のありがたみも物のありがたみも知らずかわい そう。 彼女の小さい頃は貧しく、多くの子供を抱えた家族の暮らしは決して楽ではなかった。大きな子は小さな 子の面倒を見、家族全員が助け合わなければ毎日の生活が成り立たなかった。田舎では パンひとつをとっても 今のように手軽にお店で買えなかったからどの家でも朝早くから家で焼き、家の中はいつもおいしい匂いに包まれ 幸せに満ちていた。 今の物質的に便利で豊かになった世の中でもう一度やり直すことができたとしても絶対ゴメ ンだわ、と。





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