6月26日号


上海の旅 − 2



淮海路(フアイ・ハイ・ルー)
下町の雑踏をあとに旧フランス租界の淮海路に向かう。途中庶民的な生活の匂いの溢 れる通りを歩いてみた。 日本ならさしずめ40年程前ののんびりした町の雰囲気。 商店街ではないが民家が並んでいるところでよく見かける、散髪屋、洗濯屋、食べ物 屋など珍しくもない店がぽつぽつと並びどの店も入り口の戸を大きく開け通りと一体 。ちょうど昼食時間だったため、裏の路地から食事を運ぶ人、それを店先で食べる人 などのどかな光景が続く。夫が「あれ何の店か判るか?」見ると赤や黄など原色の紙 を竹ひごに貼り付けたちゃちな玩具が店から溢れんばかり。一見しておもちゃ屋にし か見えないが考えてみれば香港でも似たような店を見たことがある。葬儀屋。九龍の 油麻地や湾仔など下町の道端でそうした張子の玩具を燃やしているのを不思議に思っ たことがあった。中国人は死後の世界を信じてあの世に行っても困らないように玩具 のお金や、死者が好きだった車や家の張りぼての玩具を燃やして弔うのだそうだ。し ばらく行くと古い家並みを取り壊したのか空き地や新築の高層住宅が現れる。建物の 感じは日本の分譲団地などに見られるすっきりしたデザイン。都会的。 旧フランス租界地区に入るとプラタナスの並木にオレンジ色の屋根、蔦が絡まる赤煉 瓦の邸宅やタウンハウスが並ぶ。英国より遅れて租界を築いたフランスは一等商業地 を取り損ねたが住宅地としては一番よいところを占め、今も一番格が高い地区として 残っている。かつての瀟洒な住宅群も現在は一つの家に数家族が住みついているよう で少々スラム化している感じがしないでもないがそれでもしっとりとした落ち着があ る。この辺りは戦前のアール・デコ、ゴシック・スタイルなどレトロ調の西洋建築と 伝統的な中国建築が多く残っており、革命の混乱の中で傷んだ建物も外灘とならびい ち早く修復されここ数年はブテックやレストラン、バー、カフェなどに利用され、香 港で言うなら蘭佳坊(ランクワイフォン)のようなトレンディーな一角として人気を 集めている。

目指すは1920年代に建てられた旧フランスクラブ。通りに面した入り口はひとき わ渋いこげ茶色のファサード。ひっそりとしたロビーは両脇からアール・デコ調の手 すりがついた螺旋階段が伸び往時の優雅さを残している。1990年に33階建ての 新館ができ花園ホテルとして営業中。夫は上海によく出入りしていた頃好んでこのホ テルに泊まっていたそうだ。当時は今ほどホテルが多くなかったせいもあるがその理 由の一つに旧フランス・クラブ時代からの広い庭園があり毎朝そこでジョギングをし ていたのだそうだ。

茂名南路をはさみ反対側にあるのは戦前からの格式のあるホテル錦江飯店。こちらの 敷地面積もかなりのもので中央にある芝生の庭園を囲むようにショッピング・レスト ラン街、旧館と本館が並ぶ。 赤煉瓦に白い石を組み合わせた古い建物には品と味わ いがある。こじんまりしたロビーはとてもシックに上手に改装されている。早速レト ロ調のエレベーターに乗り最上階の上海レストランへ。エレベーターホールや廊下も 静かでプライベートクラブのような落ち着き。レストランのテーブルには上海の特産 物、藍染めのクロスがかかり、ウエイトレスもそれに合わせた藍染めの制服、内装も こげ茶の木目調で上海情緒たっぷり。お客さんも静かに食事を楽しんでいるよう。ま ずは青島生ビールで喉を潤す。朝から散々歩き回って疲れた身にきりっとしたのみ口 がしみいるようにおいしい。 お料理は上海名物の小龍包、ソラマメの裏ごし、小エ ビのむき身、そしてウエイトレスに薦めてもらった排骨の揚げ物と豆腐料理。本場で 頂く名物料理も期待を裏切らなかったが、豚挽き肉入りの豆腐料理と葱、生姜と醤油 で味付けして揚げた排骨は絶品。270元は充分の価値。

浦東(プートン)
再びプラタナスの並木通りに戻り、オ・プランタンとパークソン百貨店の間の陜西南 路駅からから地下鉄にチャレンジ。浦東に向かうが途中の乗換駅で猛烈な混雑にあえ なく退散。一旦ホテルに戻り休憩。鋭気を蓄えて再度地下鉄にチャレンジ。何とかた どり着いた浦東は建築中のもの含め超近代的高層ビルが林立し、工事中の埋立地のよ うで歩行者には道路も渡りにくく不親切で落ち着かない。家族連れが並ぶ浦東開発の シンボル、東方明珠テレビ塔を通り過ぎ、ひときわ高くそびえる88階建て金茂大厦 (ジンマオ・タワー)に到着。ここの上階にある最高級ホテルで上海の街を眼下に望 みながらハイ・ティーが目当て、だったのだが連休中はどこもお一人様ミニマム10 8元プラス15%サービス料の看板をかかげ、案内の小姐は丁寧ながらも「あんた達 これ払えるの?」と言いたげ。ワイヤレスマイクで上の階のコーヒーショップとやり あった後専用のエレベーターに乗せてもらったのだがエレベーターを降りたところで も別のワイヤレスマイク小姐がしばらくここで待て言う。たかがコーヒーショップご ときで何をそこまでもったいぶって。ぷんぷん。ここも退散。中国の古塔をイメージ したとかの超近代ビル全体に近くで見ると無機質なステンレスだかアルミだかの針が ブスブス刺さっていて、苦手だなあ、こういうの。

外灘に望む川岸の散歩の途中立ち寄ったシャングリラ・ホテルのコーヒーショップで 気を取り直す。ロビーは混雑していたがここは本来のホテルの落ち着きと豪華さがあ り、外灘に面したコーヒーショップはゆったりとしていてほっとした。

蟹料理
夕食は蟹料理の老舗、王宝和酒家。古い造りの店で日本人客が多いと見えウエイトレ スも日本語を少々。何故かビールは日本の銘柄しか置いていない。蟹は秋がシーズン だが今は年間を通じて数え切れないほどの種類の蟹料理を出している。くらげの前菜 、きゅうりの酢の物、蟹味噌の和え物、なかでも蟹入り小龍包と蟹と豆腐のあんかけ 仕立てが絶品であった。

人民公園
こういう社会主義的な名前にはどうも馴染めない。そろそろもう少し情緒と個性のあ る名前に替えたらどうかと思う。上海の街のど真ん中で一番大きな公園。 租界地時 代は競馬場だった。一角にあるコロニアル・スタイルの重厚な石造りのクラブハウス は現在上海美術館として使用されている。内部をゆっくり見てみたかったが時間の都 合で大理石のロビーと中二階のコーヒーショップをチラッと見るにとどめる。 初夏 を思わせる暑さの中、公園は家族連れや地方からの観光客で大賑わい。公園の周辺は 浦東ほどではないが高層ビルの建築ラッシュ。よく見ると大抵の新しい建物は香港の それとどこか似ている。一昔前は和平ホテルと並びこのあたりでは一流ホテルの風格 を誇っていたという古いこげ茶色の国際ホテルの天辺に醜悪なグリーンの看板をかぶ せ残念なことに外観ぶち壊し。近代化に乗り遅れた反動かアグレッシヴな外観の近代 ビル群は「近代」だけが暴走しそっくり返り、周りとの調和が置き去りにされている ような気がする。

中国の富める沿岸都市の中でもひときわ投資が集中し経済驀進、活気に溢れる上海。 今回、気候はよかったが一番込み合う時期にぶつかってしまったためどこへ行っても 人の波に押され、意気地のない私達は退散続きだったが見残したところがたくさんあ り、またの機会にゆっくりと訪れてみたい。






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