2004年2月24日号

フランス・イタリアの旅 7


シエナ

今回の旅のハイライトはコモ湖ともうひとつトスカナ地方の中世の町シエナ。フィレンチエからシエナにかけての一帯キアンティ地方はワインの名産地。日本でキアンティ・ワインというと丸いボトルに入った甘いワインのイメージがあるがキアンティ・ワインはガロ・ネロをはじめイタリアン・ワインの正統派。 空に向かって細くまっすぐ伸びた糸杉がアクセントになったなだらかな緑の丘が続く美しいこの地方。英国人や米国人はこの地を英語風にキアンティシャーと呼び別荘を持ったり引退後過ごす人たちが少なくない。私の知り合いの英国人も長年香港で働いた後早めに引退し、本国に戻らずトスカナに居を移した。 暖かい香港の気候と美味しい食事に慣れ親しんでしまうと年をとってから暗くて寒い英国に戻るのが億劫になるのかもしれない。 私が初めて映画でトスカナの風景を見たのはベルトルッチ監督の「Stealing Beauty」リヴ・タイラー演じる19歳のNY娘が亡くなった母が若い頃を過ごしたトスカナを訪れ、そこでさまざまな体験を重ねていって、というストーリーなのだが夕陽に染まるぶどう畑が続くのびやかな光景が印象的だった。

フィレンチエで宿泊しているホテルでローカル・ツアーを申し込み、翌日シエナ・サン・ジミニャーノへと一日バス観光に出発。ガイドのラファエロ君は英・伊・仏・スペイン語の4ヶ国語ぺらぺら。シエナに着くと別のガイドさんに引き渡される。英語グループとイタリア語グループ別だ。 私たちはもちろん英語の方に行ったのだがこのガイドさんの博学なこと。あまりの知識の量にこちらの頭はパンク状態。

街の入り口
 

街の中心、カンポ広場

貝の内側のように扇型に穏やかなスロープがかかっていて、その周りを中世そのままのブブリコ宮殿、マンジャの塔など石造りの建物が囲む。世界で最も美しい広場と言われている。7月と8月にはここでパリオがある。12世紀から続く裸馬に乗った騎手たちの荒々しい競馬だ。中世の衣装を纏った人たちのパレードや彩り鮮やかな旗投げもみられる。

マンジャの塔とプブリコ宮殿


ドゥオーモ(大聖堂)


どうですこの圧倒的な豪勢さ。総大理石の壁や柱には気の遠くなるような彫刻や装飾がびっしりと施され、ゴシックとロマネスク様式を合わせたものだとか。内部は夥しい量の彫刻、壁画がびっしり。正にシエナ美術の宝庫。大理石の床には56のモチーフが刻まれており、ガイドさんが順を追って説明してくれたが、この辺りから私の頭は飽和状態。

街の中は迷路のような石畳の道が続くが上り下りがあり、なんと行っても小さな街なので迷うことはない。昼食は中世そのものといった感じの古い石造りのレストラン。前菜にトスカナ産のハム、サラミ、パテの盛り合わせ。次ぎにこれまたトスカナ名物のパン入り野菜スープ。メインはきのこのスパゲティ。仕上げはチーズ。

シエナはフィレンチエに比べるとずっとこぢんまりとして鄙びた中世の趣たっぷり。いまでこそ歴史にうずもれてすっかり寂れた佇まいだが、エトルリアの時代に始まりローマ時代をへて中世には金融と織物の中心として最盛期を迎えたが、その後勢力を増してきた新興のフィレンチエとの争いが続き、14世紀に蔓延した黒死病では人口の7割を失い、シエナは16世紀に崩壊しフィレンチエの勢力下におかれようになる。



サン・ジミニャーノ

シエナからフィレンチエに戻る途中トスカナでいちばん有名な村といわれるサン・ジジミニャーノに立ち寄った。ローマと北を結ぶ交易の要所として古くから栄え中世に最盛期を迎えたが領主たちの果てしない権力争いと黒死病で勢力を失い、14世紀にはフィレンチエの統治下におかれシエナと同じ運命をたどることになった。シエナもサン・ジミニャーノもその後勢力を盛り返すことがなかったため戦争による破壊や開発の手を逃れ中世の佇まいがそのまま残されている。

町のいたるところにこうした高い塔が


12世紀から中世にかけて領主たちがその高さを競って次々と建てた塔はさながら中世の摩天楼群。

町の中心、チステルナ広場

真中にはかつての重要な水源だった井戸が。

ドゥオーモ(大聖堂)


シエナのドゥオーモとは打って変わって簡素そのもの。ここでジェラート(アイスクリーム)休憩。暑いので喉が渇きよくジェラートを食べた。キメの細かいシャーベットのようにさっぱりして滑らかでどこで食べても美味しかった。

サン・ジミニャーノの城門、サン・ジヨヴァニ門からトスカナの風景を望む

ここでもジェラート休憩。

お土産にイノシシのサラミを買った。かなりクセがあるがワインとよく合う。夕食はフィレンチエに戻ってヴェッキオ橋のたもとにあるレストランで。ちょっとおしゃれなレストランだと最初にシャンペンを出すところが多く、ここでもそうだった。 シャンペンを飲みながらトスカナ名物のソーセージの取り合わせと銘酒ガロ・ネロを一本オーダー。ハンサムなウエイターが親切にメニューの中から美味しそうなものを薦めてくれた。メインはキアナ牛のTボーンステーキとスパゲティ。仕上げはチーズの取り合わせとティラミス。

フィレンチエからトスカナのワイナリー巡りのツアーもある。トスカナはまたその美しい田園風景と中世以来の古い建物が多く残っていることから数々の映画のロケにも使われている。比較的最近の「ライフ・イズ・ビユーティフル」の舞台になり監督兼主役のロベルト・ベニーニの出身地であるアレッゾもキアンティにある。またこの地を訪れる機会があれば今度は観光客の大波が引いた後のオフシーズンにトスカナの田舎にじっくり泊まり、あちこちのワイナリーや名画の場面を訪ねてみたいね。動きまわるよりむしろひとところに留まってのんびりしていたい連れ合いは大いに賛同。




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