2004年8月3日号
ロンドンの旅 1
Pat & Ken


 1979年から1980年にかけて私は英国に滞在しロンドン郊外のテクニカル・カレッジに通ったことがある。 そこでお世話になった英語の先生が敬愛するパット。 英国やヨーロッパはもとより多くの国々を旅行し、それぞれの文化に深い興味を持っている彼女とは授業を離れても個人的に親しくお付き合いさせてもらった。 源氏物語から日本映画まで日本文化についてさまざまな質問され、英語を勉強するにはまず自国の文化をしっかり理解しておく必要を感じたものだった。夫君のケンは当時猛烈サラリーマンで長期出張が多く彼らの銀婚式パーティーで紹介してもらったのが初対面。

エッピン・フォーレスト 初夏の緑


 それから24年。二人とも悠悠自適の引退生活に入って10年余り。ケンは子供の頃からピアノを習っていたが中学、高校、大学では勉強が忙しく就職してからも仕事の合間に資格試験の勉強に時間を取られたためピアノとは離れていたが、30代になってキャリアが安定したところで再開したのだそうだ。ケンが引退して間もない頃チェロやバイオリンの人たちとの練習風景を見させてもらったことがあるが、中高年のおじ様たち、実に楽しそうで人生の豊かさを感じたものだ。その一方今でもピアノの検定試験を受けに行っているそうだ。恐るべき向上心。パットは昔から絵を描いたり、パッチワークやガーデニングなど生活の中でアートを楽しできたが引退してからは絵の勉強に本腰をいれたようだ。二人で方々の美術展やコンサート、演劇、映画、それに英国内はもちろんヨーロッパの各地で催されるアート・ツアーに出かけるなどまったくうらやましい優雅で文化的な生活だ。 

 私はこの間二度英国を訪れその度にパット夫妻のお世話になっているが子供連れだったため大人が楽しめる英国の芸術・文化に接することは出来なかった。その子供二人とも長い休みの時以外は家を離れて暮らす生活が落ち着いたし、ここはご無沙汰を重ねてきた英国を訪ねるチャンス。そうは言ってもまたパット夫妻のお世話になるのだが、5月末から6月初旬にかけての2週間の日程と希望を告げるとコンサートや観劇の切符を次々と手配してくれた。評論やアドバイスもつけて。

水仙が咲き乱れる森の泉

 ロンドン、ヒースロー空港から延々地下鉄を乗り継ぎ辿り着いたセントラル・ラインの終着駅エッピンは前回訪れた8年前、いやもっと前の24年前とどこも変わらない。改札口も一つなら陸橋もそのまま。もちろんエスカレーターやエレベーターなどがあろう筈がない。運悪く乗ってきた電車は一つしかない改札からは反対側のホームに到着してしまったので重いスーツケースを担いで陸橋を上り下りしなくてはならない。えっちらおっちらやっていると杖をついたご老人が「ごめんね、手伝えなくて」と申し訳なさそうに通り過ぎていく。そう言ってもらえるだけでもうれしいものだ。すると向こうからやってきた若い男性が「お手伝いします」と軽々と階段の上まで運んでくれた。昔英国に住んでいた時は若くて体力もあり身軽だったからあまり感じなかったが、その後1歳の長男をバギーに乗せて旅行した時はいろんなところでいろんな人に親切にしてもらった。地下鉄の駅などで階段に出くわすと向こうの方からわざわざ戻ってきて赤ん坊が乗ったバギーを担いでくれた人、セルフサービスのカフェでバギーを押しながら食べ物の載ったトレーをどう運ぼうかと思案していると「私がトレー運んであげるからあなたはあそこのテーブルにどうぞ」と助けてくれた女性。そんなイギリスをまた訪れることができて幸せだ。

 改札ではケンが待っていてくれた。ケンも家で待っていてくれたパットも長身ですらっとしているので70歳を過ぎても若々しい。 ケンは「僕の最新お気に入りの玩具」といって日本製の消音ピアノを演奏しイアホンで聞かせてくれた。「これだと夜中でも練習できるからね。」知的好奇心が旺盛なのも彼らの若々しさの秘密なのだろう。













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